もうダメだった。
「わかりました。今日はもうスタッフ長は帰っているんで明日の朝の結衣くんの担当は私が引き継ぎます。莉子さんはスタッフ長が出勤し次第担当の話をつけてください。もちろん誤解も全力で解きに周ります!」
「綾音!ありがとう!」
私と綾音はお互いに向き合って強く握手をした。
これで結衣とのいざこざは何とか落ち着きそうだ。
*****
と、思っていたのだが。
「本日、神崎様からクレームを受けました」
私は今、スタッフ長と一緒に支配人室に呼ばれ、そしてホテルの支配人からクレームについてお話をされていた。
何故こんなことになったのか?
支配人にお話をされている経緯は、いつも通り夜勤の業務から朝になりスタッフ長が出勤してきたので、昨日の出来事を伝えようとすると、いきなり一緒に支配人室に来るように、とスタッフ長から言われた。
それで今現在の状況である。
…自分でも何が何やらって感じだ。
今のところタブレット上では確かに私が神崎結衣の担当なのでクレームがきたら私がお叱りを受けることになるだろう。
だが、それを何故スタッフ長も一緒に受けるのか?
「神崎様は山岸さん、貴女をコンシェルジュとしてご指名しています。それなのに本日の朝、山岸さんではないコンシェルジュが神崎様の元へ伺ったとか」
「…っ」
嘘でしょ…。
支配人の言葉を聞いて私は表面上は落ち着いていたが心中で頭を抱えていた。
知らなかった…。
まさか結衣が私を指名していたなんて。
普通コンシェルジュを指名するのはここの常連だ。
コンシェルジュのことを知っているからこそ次回はあのコンシェルジュに、となるのだ。
それがこのホテルに来たこともない結衣がまさか指名をしていたなんて夢にも思わなかった。
そもそもこのホテルに誰が在籍しているかなんて情報は公の場にはない。
だからやっぱり最初から指名するためには常連である必要があるはずなのに。