もうダメだった。
「よくわかったね」
「まぁね」
ふふ、と嬉しそうな結衣に私は穏やかに笑う。
大好きな味だった。
結衣が作ってくれるから余計に。
結衣はこの味噌汁と野菜炒めしか作れなかった。
だからたまに作る結衣の手料理はいつもこれだった。
忘れられるはずのない味だ。
「ねぇ」
「うん?」
味わいながら結衣のご飯を食べていると少しだけトーンの下がった結衣の声が私に届いた。
「どうして俺の前から消えたの」
「…」
ご飯を食べている手が止まってしまう。
結衣の方を見つめればどこか暗い表情の結衣が私を真っ直ぐと見つめていた。
別れた元彼女に見せるような顔ではない。
まるで私に未練のあるような顔だ。
…いや、結衣からしたら仲の良かった元彼女がまさか別れた途端こんなにも姿を眩ますとは思わなかったのだろう。
あまり自分の都合のいいように解釈するのはやめないと。
「別れたからだよ」
私は溢れ出しそうな想いにきちんと蓋をして冷静に結衣にそう言った。
「だから俺の前から消えたの?それだけで?」
「…そうだよ」
それだけ?
別れた、それだけで結衣の前から消えるには十分な理由ではないか。
それでも結衣は私の答えがどこか腑に落ちないようだった。
「俺、あれからずっと莉子を探してたんだよ。探しても探しても莉子見つからないし、気が狂いそうだった」
どんどん結衣から表情が抜け落ちていく。
苦しかった思いとか、必死だった思いとか、切実だったことが伝わってきた。
これではまるで結衣が私を今も好きみたいではないか。
「…莉子がいないとダメだった。もう一回付き合お?いや、結婚して」
「…っ!」
光を失った美しい瞳で結衣は私に信じられないことを言った。
結衣が私を好き?
付き合うどころか結婚?
嬉しいと思えた。
だけどその考えは冷静な私の考えてすぐに打ち消された。