もうダメだった。
忘れられたとまで言わないがもう大丈夫だと思っていた。
結衣が目の前にいても私は平静を保てると。
だけど実際は違っていた。
結衣にこう言われて嬉しくない私なんていない。
胸がどうしても高鳴ってしまう。
それでも私は結衣からのこの申し出を受け入れられないと判断した。
6年前の私は結衣が私だけの結衣ではなくなっていくことに耐えられなかった。
結衣が大好きで大好きでどんどん重たくなっていく自分が嫌だった。
今の結衣は6年前よりももっと有名人で、みんな〝結衣〟だ。
きっと今付き合えば6年前以上に私は苦しくなるし、重たくて嫌な自分になるに違いない。
「ごめん。結衣の気持ちには答えられない」
「…え」
やっとの思いで結衣の告白を断ると今度は結衣の方が固まった。
そして数十秒後、結衣はすぐに口を開いた。
「どうして?俺のこと嫌いじゃないんでしょ?どうすればいいの?何で?俺には莉子だけなのに…」
まるで絶望したように結衣が私に縋る。
胸が痛い。それでも私は結衣を拒否しなければならない。
「もう、終わったんだよ、私たち。6年前に」
「…終わった?」
「そう。私にも相手がいるし、結衣には答えられないよ」
もちろん、私に相手なんていない。
だけどこのくらい言わないと今の結衣は引き下がらないと思った。
だから私は敢えて結衣に残酷な嘘をついた。
「…俺が大好きだから別れたんだよね?耐えられないほどだ、て言ってたよね?俺、莉子が言った言葉一語一句覚えているんだよ?」
結衣の雰囲気が変わった。
先程までの絶望が怒りへ変わったようだ。
「俺のことなんてもうどうでもいい?」
そう言って結衣は勢いよく私の顔を両手で掴むとそのまま私にキスをした。
「…っ!」
いきなりのことに私は目を見開く。
驚いて緩んだ私の唇を結衣は無理矢理舌でこじ開けてさらに深く私の中に入ってきた。
「ちょっ!ふ、んん!」
あまりにも荒々しいキスにあの頃なんて感じられない。
ただ結衣の怒りだけを感じる。
「んんっ、や、」
あまりにも長いキスに徐々に私の体力は奪われていき、抵抗する気力もなくなり始めた。
むしろ、大人になった結衣のキスに私はどこか喜びも感じていた。