もうダメだった。
「…はぁ、はぁ」
やっと結衣から解放される。
私は肩で息をして何とか空気を取り込もうとしていたが、結衣は平気そうだった。
ただ色っぽい顔で満足げにこちらを見ている。
「そんな顔してるのに俺のこと好きじゃないの?」
少しだけ意地悪く笑う結衣に私の中の何かが切れた。
それはもうプツン、と音を立てて。
「好きじゃない…。あの時に終わったって言ったでしょおうがぁぁぁぁぁああああ!!!!」
その場で勢いよく立ち、私は結衣に向かって叫んでいた。
こっちは必死で思いを断ち切ろうとしているんだ!
それなのに無理矢理キスするし、最悪だ!この男!
私が勢いよく叫ぶと結衣はポカーンと間の抜けた顔で私を見ていた。
「これ以上は許さない!」
私はそんな置いてかれ気味の結衣なんて無視してさっさと席を立つと結衣から少しでも離れられる場所を求めて歩き始めた。
*****
結局あの後、私は契約上結衣の客室からは出られないので、結衣の客室で過ごしたが、結衣とはなるべく一緒にいないように心がけた。
とにかく心苦しかったが、結衣の存在を無視し続けた。
そしてあっという間に夜になった。
「…」
この部屋にはキングサイズのベッドが一台しかない。
だから私はソファで寝ようとした。
したのだが。
「莉子がソファで寝るなら俺は床で寝る。莉子がベッドで寝るなら俺もベッドで寝る」
と、結衣は言って本当に床で寝出すものだから私は渋々ベッドの中に入った。
…お客様を床で寝かせたなんて知られれば何を言われるかわからない。
それに体が資本な結衣にそんなことはさせられない。
私がベッドに入れば当然約束通り結衣もベッドに入る。
私は結衣に背中を向けてなるべく離れて寝るように心がけた。