もうダメだった。
「別に。最近本当によく見るなって思っただけ」
「なんだぁ」
興味のないフリをして綾音に答えると綾音は残念そうに肩を落とした。
「仲間がまたできたと思ったのにー」と悔しそうに唇を尖らせている姿は女の私から見ても可愛らしい。
私の世界から結衣は未だに消えない。
それでもあんなに大好きだった想いはもうない。
全ては時間が解決してくれた。
私はもうあの頃のように結衣を好きではない。
まあ、元カノとして結衣の活躍を密かに応援くらいはしているけどね。
ちらりと手元のスマホの時間を確認する。
時刻は18時前、私たちの休憩時間ももうすぐ終わりだ。
「フロント戻ろうか、綾音」
「はぁい」
私に声をかけられると少しだけダルそうに綾音は私に返事をした。
まだまだ休んでいたい様子だ。
…それには私も同感である。
休憩時間を終えた私たちは重たい腰を上げてスタッフルームを後にした。
*****
フロントのカウンターの前でこの後の予約のチェックや簡単な業務を進めていく。
私が地元を離れて勤めているここは海外のリゾート地を彷彿させるような豪華さと、どこか落ち着いた雰囲気のある、とある高級リゾートホテルだ。
私はここでフロント件コンシェルジュとして働いている。
高級リゾートホテルだからか、落ち着いた品のあるお客様が多く、あまり嫌な思いもしないし、職場の人間関係も良好だし、いい職場だと思う。