もうダメだった。





*****



会えることが嬉しいような、久しぶりで気まずいような複雑な想いで待つこと約15分。

結衣は18時半ぴったりにこのホテルへ到着した。

やはり私が担当する〝神崎結衣〟はあの結衣だった。
 


「ようこそお越しくださいました、神崎様」



結衣を真っ直ぐ見た後、私は作り物のように微笑んで結衣に頭を深く下げた。


あの頃よりも数十倍、いやもっと結衣は美しく魅力的になっていた。
あの美貌に芸能人としての華も加わればもう誰にも結衣には敵わないだろう。


本当に結衣は随分遠くに行ってしまったのだと感じてしまう。


立派になったな。


結衣に会えばどうなってしまうのだろうと不安であったが少し胸が高鳴るだけで案外平気だった。

むしろしっかりと成長した結衣に会えて私は純粋に嬉しいようだった。



「お荷物お預かりいたします」



顔を上げて結衣からキャリーバッグを受け取ろうと私は結衣のキャリーバッグへ手を伸ばした。
すると結衣はその手を掴んでグッと自分の方へ引っ張った。



「他人行儀だね、莉子」



にっこりと結衣が笑う。
私は結衣に手を引っ張られたことにより結衣の胸に体を預けている体勢になってしまっていた。



「…困ります」



グッと結衣の胸を押してさっさと結衣から距離を取る。



「本当だ、困ってるね。眉間に皺が寄ってる。変わらないな」



ふふ、と楽しそうに笑って私の眉間に触れる結衣。

私はそんな結衣の姿を見て困惑した。


別れる前のあの頃と態度があまりにも変わっていなかったからだ。






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