13歩よりも近い距離
 自室のベッドへ身を投げて、スマートフォンを操作する。震える指で『すいぞうがん』を入力すると、何故だか『王様』の文字が浮かび上がった。

「癌の、王様……」

 治療が極めて難しい。手術後の生存率がとても低い。初期の段階での自覚症状はほとんど無く、気付いた時には病気が進行している。食欲不振、体重減少、腹痛。
 記憶が、巡る。
 
「ちゃんと見ろよ。保健体育の教科書だろがっ」
「えーっ、なんでまた」
「そこらへんにあったから、暇つぶし」

 あれがもし、暇つぶしではなく、臓器について調べていたとしたら。
 
「そもそも未来の俺等が、どこにいんのかも分かんねえじゃん!」
 
 あの言葉がもし、死を意識していた上での発言だったとしたら。
 
「岳ちゃんの願いなら、叶えてやりなさい」
「万が一のことがあった時は、すぐに知らせなさいね」
「すずちゃんごめんねえ、岳が我儘言って」
 
 私だけが知らなかった。岳を守ると誓ったのに、私だけ、何も知らなかった。

「うそ……うそだ、岳っ……」

 だからこんなの、信じられない。
 岳がもうすぐ、この世から居なくなるなんて。
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