13歩よりも近い距離
「ちょっとすずっ、どこ行くのっ?」

 散々打ちひしがれて、どん底まで気分が沈んで。次に顔を上げた時の時刻は夜十一時。

「岳んち!」
「え、今から!?」

 いくら昔からの馴染みの仲だといえ、無許可で訪問する時間ではないと分かっている。だけど確認せずにはいられなかった、岳に逢わずにはいられなかった。
 膵臓癌だなんて余命だなんて、そんなの嘘だよって岳が笑ってくれなきゃ、私の寿命が縮まってしまうよ。


「あらすずちゃん、こんな遅くにどうしたの?」

 岳の家までの十三歩。今日は大股しか使わなかったから、十歩で着いた。
 夜中の突然のインターホンに扉を開ければ、息を切らせる息子の幼馴染が現れて、岳の母親は戸惑っていたかもしれない。たったこれだけの距離で、どう息など切れるのかと。
 肩で酸素を取り入れながら、私は言う。

「と、突然お邪魔してすみませんっ。が、岳いますか!?」
「え、岳?」
「が、岳の部屋っ、上がってもいいですかっ」

 いつもの彼女ならば「どうぞ」とすぐ笑みを向けてくれるのに、今日は違った。俯いて、下唇を噛んで、瞳を潤ませる。

「岳は自分の部屋にいるけど……」
「じゃ、じゃあ会ってもいいですか!?」

 食い気味にそう聞くと、彼女の喉仏がごくりと動いたから、私は鳥肌が立った。

「岳はもう、すずちゃんの知ってる岳じゃないからね。ゴールデンウィーク明けから、一気に体調が悪くなったの」
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