13歩よりも近い距離
「こおら、がっくちゃんっ」

 放課後。岳の好物である飴を購入し、私は彼の部屋へと突入。

「あんたが好きなソルトキャンディ、十袋も買ってきてあげたよっ。これで元気出たでしょ?明日は絶対学校行けるね」

 朝と変わらぬスウェット姿のままに、岳は冷たい目を向けてくる。

「そんなんで、俺が従うと思ってんの……?」
「じゃあいらないの?」
「いる……」

 岳の面前で一袋、ぶらぶら揺蕩(たゆた)わせていたそれを彼は奪うと、早速一粒食べていた。
 ころんころん。岳の口からそんな音。

「すず、そろそろ答え出た?」

 ベッドから雪崩(なだれ)のように身を滑らせ、床へと尻をつけた岳を見て、私もゆっくり腰を下ろす。
 ころんころん、ころんころん。岳の頬がデコボコしていた。

「俺と付き合ってよ」

 羨むほど丸くて大きい岳の瞳が、上目で私を捉えてくる。寸刻でも油断すれば吸い込まれると分かっているから、私は視線を横に逸らせた。

「つ、付き合わないってばっ」

 強い口調にならぬよう意識したけれど、言い方は素っ気ない。

「もう何回も断ってるじゃん、説明したじゃんっ。岳は歳下だし昔から知ってるし、弟か空気みたいにしか見てないってっ」

 そこまで言って岳を見る。彼はガリッと口内のものを潰していた。

「こっちだって何度も言ってんじゃねえか。俺への見方を変えろって」

 ガリガリジャリジャリ砕ききると、二個目を口に放り込む。私は声を張り上げた。

「い、今更変えられるわけないじゃんっ!もう何年幼馴染やってると思ってんのっ!」
「十年」
「ほら、人生のほとんどを幼馴染やってんだよ!?」
「だから?」
「だ、だから今更岳に対して、なんも思えないってばっ」
「男として見られないってこと?」
「そうっ」
「ふぅん……」

 途端に流れる、気不味い雰囲気。絡む視線からもこの場からも、逃げたくなる。何故なら岳は、絶対岳は──

「あーあっ。まじですず、うぜえっ」

 ほら、怒っちゃった。
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