あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 自分でもよく分からないことを言ったと思いながら、何か言いたげに、中途半端にこちらに手を伸ばしたままの大葉(たいよう)からあえて視線を逸らせると、羽理(うり)は自由になった手でオールインワンジェルの入った小さめのチューブを手に取った。

 容器がいつになくひんやりして感じられるのは、羽理の手が常より温かいからだろう。
 大葉(たいよう)の大きな手でギュッと握られていた左手は、少ししっとりして熱を持っていたから。

 それが何だか妙に気恥ずかしく思えてしまっているのは何故だろう?

「あ、あのっ。私っ、カゴ持って来ますね」

 まるでその気持ちから目を逸らしたいみたいに……。ジェルを手にしたままハタと気が付いたように言ったら、「お、俺がっ」と片手を上げて羽理を押しとどめた大葉(たいよう)が、そそくさと羽理のそばを離れる。

 そこでふと気付いたように「すぐ戻ってくるから……そこ、動くなよ? 迷子になるぞ!?」と付け加えてきた。

「いやっ、私、ちっちゃい子供じゃないですから。そんなすぐ迷ったりしませんって」

 条件反射でそう答えながらも、羽理は(やっぱり《《あれ》》は私がはぐれないようにしてくれてたんだ……)とちょっぴり寂しい気持ちで自分の左手を見詰めた。


***


「あれぇ~? 荒木(あらき)先輩?」

 ファンデーションはいつも使っているパウダータイプにすべきか、それともサッと塗り伸ばせばいいだけのリキッドタイプにすべきか。
 うーん、と悩んでいたところにいきなり声を掛けられて、羽理(うり)は「へっ?」と間の抜けた声を上げた。
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