あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
12.苦しい言い訳
 ちょっと荒木(あらき)羽理(うり)から離れて買い物かごを取りに行っただけなのに。
 屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)が、かごを片手に戻って来てみれば、見知らぬスーツ姿の男が羽理の前に立っていた。

 ゆるふわな髪の毛をクラウドマッシュに仕上げたその男は、明るい印象のキャラメルブラウンの髪色をしていて、見るからにチャラい。

 それで、即座に(ナンパか!?)と思ってしまった大葉(たいよう)だ。

 何せ羽理は《《黙って立っていれば》》絶世の美女(←あくまでも大葉(たいよう)主観)。身長も小柄で、守ってやりたくなるような愛らしさも兼ね備えている。
 ちょっぴり釣り気味の大きな瞳は、じっと見詰められると思わず戸惑ってしまうほどに蠱惑的(こわくてき)だ。

(ま、口開いたら相当残念なんだがな……)

 大葉(たいよう)はそのギャップがたまらなく好きなのだが、あの魅力が分かる人間は少数派(レアキャラ)だと思いたい。

 大葉(たいよう)の視線の先、愛しの羽理が戸惑っている様子だったから。
 大葉(たいよう)は大股で羽理の元へと急いだ。

 と――。

「――ここで会えたのも何かの縁ですし、これから俺と一緒に食事でも……」

 チャラチャラした雰囲気のスーツ男が、あろうことか羽理にそんなことを言っているのが耳に入って。

 思わず手にしていたかごをヌッと二人の間に突き出して、「生憎(あいにく)だがコイツは俺の連れだ」と恋人宣言をしてしまった大葉(たいよう)だ。

 なのに――。

「え? ――や、くみの……ぶちょ? ちょ、ちょっと待って? 何で先輩が部長と一緒にいるんっすかっ!?」

 とか――。
< 129 / 449 >

この作品をシェア

pagetop