あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 ニャ、と聞こえた気がしたけれど、きっとずっと黙っていて急に羽理(うり)に話しかけてきたから、舌を噛んだか何かなさったんだろう、と思って。

「お守り?」

 お婆さんの前に置かれた台上に視線を落とすと、招き猫デザインのキーホルダーがずらりと並べられていた。

 愛らしい顔をした招き猫達はさくらんぼみたいにペアになってぶら下がっていて、各々(おのおの)が小判の代わりに白文字で「良縁」と書かれた真っ赤なハートを手にしている。

 縁結びのお守りだからだろうか。

 パッケージに『あニャたに良縁引き寄せます♥』と書かれていた。

(二匹いるのに持ってるハート、半分こずつじゃないんだ)

 二つをくっつけるとハートが完成するような、いかにも〝恋人同士が一つずつ持つような仕様〟になっていないところに好感度が爆上がり。

(そんなになってても渡す相手いないしね)

 それが寂しくてお守りに(すが)りたい羽理にとって、目の前のキーホルダーは、おひとり様にすごく配慮されたお守りに見えてしまう。


「私、猫、大好きなんですっ」

 言いながらその中のひとつを手に取ったら「八百円です」とふくふくした手を差し出された。

 羽理はその手に千円札を載せると、「あ、お釣りはいいです。可愛いのを売っていただいたお礼です」とペコリと頭を下げる。


「親切《《ニャ》》お嬢さんに素敵な出会いがありますように」

 お婆さんが羽理のほうをじっと見つめてきて。
 思いのほか吊り上がった目を糸のように細めてニヤリと笑った。

 羽理は「ありがとうございます」とペコリと頭を下げると、手の中のお守りに向けて、「どうか……どうか……お願いしますニャ!」と殊更(ことさら)真剣につぶやいて、そそくさとその場を後にする。


 その瞬間、羽理の背後でお婆さんの吊り目が猫の目みたいにキラリと光った。
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