あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
(……ん? ちょっと待って? ひょっとして私、自宅へ戻った後、もう一度ここへ来る算段になってますかね?)

 答えた後でそう思い至った羽理(うり)だったけれど……大葉(たいよう)が晩ご飯を作ってくれると言っていたのを思い出して、それを食べて帰れと言うことかな?とぼんやり思い直した。

「あー、そうだ。今朝のお前の失敗を踏まえて、お互いに仕事へ着て行けそうな服と、ラフな部屋着の両方を置くようにしとこうか」

 言って、大葉(たいよう)が持ってきたのはクリーニング済みと思われる、ビニールに包まれたワイシャツとスーツで。
「これ、一式お前ん()用な? ちょっと持っててくれるか?」
 とか当然のように言ってくるから、思わず受け取りつつも、羽理は(どこに保管すればいいですかね!?)と思わずにはいられない。

 どうやら大葉(たいよう)、今現在羽理宅にはラフな部屋着を置いているらしい。
 以前大葉(たいよう)から渡された着替え一式が入っていると(おぼ)しき袋は、中身なんて確認せずに押し入れに突っ込んでいるから。今回スーツを差し出してきた大葉(たいよう)を見てそう思うと同時、こんなちゃんとした服、置き場に困ります!と思ってしまった。

 何せ、大葉(たいよう)のマンションと違って羽理の部屋はワンルームしかないのだ。

(自分の服と一緒に、このお高そうな部長のスーツを並べ置く?)

 小さなクローゼットの中で寄り添う、お気に入りのワンピースと大葉(たいよう)の高級気なスーツ、という構図を思い浮かべた羽理は、ブワリと頬が熱くなるのを感じた。

(何か同棲してるみカップルみたいで恥ずかしいではないですかっ)

 羽理が夏乃(なつの)トマト名義で書いているラブコメ作品『あ〜ん、課長っ♥ こんなところでそんなっ♥』にだって、そんなシーンは出てこないのに。

 というか……よく考えてみたら自分には恋のときめき的なものがイマイチよく分からないことに、今更のように気が付いた羽理だ。
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