あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「あ、あの、それだと何だかお泊り前提みたいになってると思うんですけど……」

「ん? もちろんそのつもりだが?」

 キョトンとした顔をした大葉(たいよう)から「そもそも入浴後に片道二〇分の距離を、相手を送迎するためだけに費やすなんて馬鹿くさいだろ?」と、さも当たり前みたいに付け加えられて。

 そ、それは確かにその通りなんですがっ!と思いつつも反論したくてたまらない羽理(うり)だ。

大葉(たいよう)のお家は広いからいいですよ? でもうちは……ご存知と思いますけどめっちゃ狭いワンルームマンションなんです! お部屋がひとつしかありません! 二人でお泊りしたら……その……あの……」

 別室へ……が出来ないから、一緒の部屋に寝るしかなくなるではないですか。

(それは困りますっ!)

 そう思って。


「ひょっとして大葉(たいよう)は恋愛経験めっちゃ豊富な人ですか? 抱いた女性の数も、両手両足の指じゃ足りないくらいなんじゃないですかっ!?」

「は? 何だいきなりっ」

 キュウリを構うのをやめて慌てたように立ち上った大葉(たいよう)に、斜め上から困ったようにじっと見下ろされて。
 羽理は無意識に先程手渡されたばかりのスーツを抱く腕にギュウッと力を込めた。

(だってもしそうだとしたら……すっごくすっごく《《腹立たしい》》ではないですかっ!)

 プレイボーイに手玉に取られるのは(しゃく)(さわ)るから……。
 すぐさまそのモヤモヤの正体を、《《無理矢理》》そう結論付けた羽理だ。

 大葉(たいよう)が知ったら『誰がプレイボーイだ、バカ者め! 自慢じゃないが、俺はめちゃくちゃ奥手だぞ⁉︎』と要らぬ告白をしかねないことを思っているのだが、残念ながら《《ある種のゾーン》》に入っている羽理は気付けない。
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