あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 あんな手間暇(てまひま)かけた弁当を作って持たせてやるとか……どう考えても羽理(うり)のことを溺愛(できあい)しているとしか思えないではないか。

(ニンジンとかも荒木(あらき)さんの好きな猫型にしてあったし……相当な入れ込みようだよね!?)

 以前、意中の男性の胃袋を掴むと懇意(こんい)になれると信じているらしい女性から、やたら手作り料理を渡されまくったことがある岳斗(がくと)だったけれど、想いが強すぎる相手からの手作り品なんて、何が入っているか分からなくて気持ち悪くて……。
 食べる気にもなれなかったのを思い出す。

 だが、羽理はどう見ても嬉しそうにそれを食べていたし、何なら岳斗にその素晴らしさについて()いてくれもした。

(ちょっと待ってよ荒木さん。キミはもう、恋心はおろか胃袋まで、裸男にガッツリ掴まれちゃってるってことなんじゃない……?)

 そう気付いたと同時――。

屋久蓑(やくみの)部長や五代(ごだい)懇乃介(こんのすけ)なんかより、裸男の方がよっぽど要注意人物だった!)

 今更だが、裸男には勝ち目がないのではないかとすら思ってしまった岳斗だ。

(彼女持ちだと軽視してたけど……そうじゃなかったんだ)

 ――荒木(あらき)羽理(うり)の背後に裸男の影が散らつき始めてからずっと。やたら感じていた胸騒ぎは伊達(だて)じゃなかったらしい。


 見知らぬ敵を相手に戦うのは()が悪いな?と思った岳斗だったけれど、それでも荒木羽理のことを簡単には諦めきれないことも自覚してしまったから……。
 初めて感じるどうしようもないくらいの悔しさと焦燥感を、長々とした吐息に乗せて吐き出した。
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