あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
***


羽理(うり)ちゃんは?」

「いま脱衣所で身体拭いてる」

 大葉(たいよう)が、今朝洗濯して先ほど取り込んだばかりの羽理(うり)の着替え――ルームウェア――を取りにリビングへ行くと、キッチンにいた柚子(ゆず)が興味津々と言った様子で身を乗り出してきた。

「何で女性ものの服があるんだろう?って思ってたら……あの子のだったかぁー」

 大葉(たいよう)が抱えているルームウェアを見て、柚子がニマニマして。

 そんな姉の足元。
 柚子にもよく懐いている愛犬キュウリが、何故か大葉(たいよう)側に付くことなく柚子サイドから、姉と一緒にこちらをじーっと見上げてくるのが何とも居心地悪く感じられた大葉(たいよう)だ。
 キュウリの顔を見詰め返しながら、(う、ウリちゃん! 何でそっちサイドなんでちゅか!? パパの味方して下ちゃい!)と、(なげ)かずにはいられない。

 恐らく大葉(たいよう)が泊まりがけで出張に行く際など、持ち家一軒家に旦那と二人暮らしの柚子にキュウリのことをお願いしているのもあるんだろう。

 実際、羽理に入れ込んでからというもの、大葉(たいよう)はほんのちょっとだけ最愛のキュウリを二の次(ないがしろ)にしている自覚もあった。

 実は今から大葉(たいよう)は、そんなキュウリのことを柚子に一晩ばかり託そうとも思っていたから。

(きっとウリちゃんにはパパのしようとしてる不義理が分かってるんでちゅね?)

 アイコンタクト。
 キュウリに心の中で「ごめんね」と謝ると、大葉(たいよう)はそのことを柚子に伝えようと口を開きかけたのだけれど――。
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