あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 いつもなら「乾かしてやるよ」と羽理(うり)を甘やかすところなのに自分でやれと言ったからかも知れない。

 そう気が付いた大葉(たいよう)だ。

 ここ最近は心臓が痛いからあまり近付かないで?と言われまくってきた大葉(たいよう)としては、捨て猫のような表情(かお)でこちらを見詰めてくる羽理をめちゃくちゃワシャワシャしたいところだ。

 だが――。

「たいちゃん、まだぁー? お姉ちゃんのこと忘れて羽理ちゃんとイチャイチャしてなーい?」

 コンコン……と脱衣所の扉がノックされて、柚子(ゆず)からそんな声を掛けられては諦めざるを得ない。

 吐息混じりに「すぐ行く」と答えて、大葉(たいよう)は「身支度(みじたく)整えたらお前もリビングな?」と羽理のタオルドライ後の湿った頭をポンポンと名残惜し気に撫でた。


 脱衣所から出て来るなりキュウリを足元に(はべ)らせた柚子が仁王立ちで待ち構えていて、思わず吐息のこぼれた大葉(たいよう)だ。

「まぁ落ち着けよ。飲み物用意するから」

 そんな柚子をリビングで待たせると、大葉(たいよう)は電気ポットに水を半分くらい入れて沸騰スイッチを押す。

 身体が冷え切ってしまった羽理に、温かいココアを飲ませてやりたいと言うのが本音だが、そのついでに柚子にも何か飲ませてやってもいいと思ったのだ。

 ついで……とか思いながらも、結局自分と柚子には、ドリップケトルで沸かしたお湯を使って、いつだったか贈答でもらったドリップコーヒーを淹れた。
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