あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「ふぅーん。世の中にはよく分かんない不思議なことがあるもんなのねぇー」

 柚子(ゆず)は驚くほどアッサリと、この現象を《《現実として》》受け入れてくれたみたいで。

 ほぅ、と溜め息を落としてマグカップを傾けるなり、感心したようにそうつぶやいた姉を見て、大葉(たいよう)は思わず問い掛けずにはいられない。

「なぁ、柚子。ひょっとして俺の言ったこと、信じてくれてんの?」

 嘘はついていないのだから信じてくれとしか言いようがないのだけれど、こうもすんなり受け入れられては逆に落ち着かないではないか。

 折角淹れたくせに、カップに一度も口をつけていなかったことに気が付いた大葉(たいよう)は、自分は思いのほか緊張していたんだなと思って。

 生唾を飲み込むついでのようにコーヒーを口にした。

 ほろ苦く薫り高い液体が、喉を通って腹に落ちていくのを感じる。


「信じるも何も……お姉ちゃん、羽理(うり)ちゃんの不可解な登場、()の当たりにしちゃったもん」

 どう考えても説明のつかない羽理出現の謎も、いま語られたことが真実ならば説明がつく。

 言外にそう付け加えてくる柚子に、我が姉ながら適応力(たけぇ)なと感心した大葉(たいよう)だ。


「――で、たいちゃん、その不思議現象の原因は探ったの?」

「原因?」

「だって……絶対にあるはずでしょう? 今まで起こらなかったことが急に起こるようになったならその理由が」

 柚子の指摘に、大葉(たいよう)はそういうアレコレをすっかり失念していたことに、今更のように気が付いた。
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