あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 柚子(ゆず)からの質問に対して即座に「当たり前だろ!」と答えた弟に対して、羽理(うり)大葉(たいよう)のその言葉が信じられないみたいに「えっ!?」とつぶやいて驚いた顔をするから。

(ちょっともう、この二人、何でこんなちぐはぐなの!)

 どう考えても両想いにしか見えないのに、この認識の差!

 目の前で「いや、俺、お前に好きだって言っただろ? なるべく一緒に過ごそうとも伝えたはずだぞ?」だの「確かに好きだとは言われましたけど、……一緒に過ごすのは病気を治すためだって言ったじゃないですかっ」だの不毛な言い合いが始まって。

 柚子ははぁーっと大きく溜め息を落とさずにはいられない。
 そんな自分を、『どうしましたか?』と言う表情で見上げてくるキュウリをヨシヨシと撫でながら、
「たいちゃん……」
 柚子が狙いを定めたのは羽理ではなく可愛い弟だった。


***


 わけが分からないことを言う羽理(うり)に色々言い募っていたら、姉が呆れたように声を掛けてきて。

 その途端、羽理が柚子(ゆず)の存在を思い出したようにハッとして口をつぐんでしまう。
 仕方なく大葉(たいよう)が柚子の方を見ると、「貴方ねぇ、羽理ちゃんに『好きです、《《俺と付き合って》》下さい』ってちゃんと伝えたの?」と言われてグッと言葉に詰まった。

 言われてみればそんなセリフは言っていなかった気がしたからだ。

「やっぱり……」

 はぁーとあからさまに溜め息を()く柚子に、大葉(たいよう)は「けど! 普通好きだって言ってきた男に一緒にいたいって言われたら〝俺の彼女になってくれ〟って意味に取るだろ!?」と言い募ったのだけれど。

「貴方の言う普通が通じなかった結果が〝今〟なんじゃないの?」

 と言われてしまっては、二の句が継げないではないか。
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