あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「たいちゃんはホントいいお嫁さんになれるわね」
 とか言ってくるから、
「俺は妻をめとりたい」
 とボソッとつぶやいて、ソファでキュウリを撫でる羽理(うり)に視線を投げ掛けた大葉(たいよう)だ。

「……そう出来るよう頑張りなさいね?」

 眉根を寄せて困ったように――。「色々と」と付け足した柚子(ゆず)に、伯父から持ち掛けられている見合いもどうにかしないとまずかったなと……思い出した大葉(たいよう)は、小さく溜め息をついた。


「ホント、たいちゃんの作るものはみんな美味しそう」
 全ての支度(したく)を終えて、とりあえず明朝の分にラップをかけて冷蔵庫に仕舞ったら、今夜のおかずを前に柚子が嬉しそうに笑う。

「柚子だってそんくらい作れんだろ」

 柚子は結婚して旦那だっているのだ。
 大葉(たいよう)がわざわざ作らなくたって、本当は料理上手なのを知っている。
 子供の頃は共働きの両親に代わって、一番上の姉――七味(ななみ)と一緒になって、幼い大葉(たいよう)によくアレコレ作って食べさせてくれたものだ。

 家では旦那のために手料理を振る舞っているだろうに。

 そう思って苦笑したら「たまには人が作ったものを食べたいのよ」とニコッとされた。

 まぁ、確かにそういう気持ちも分からなくはなかったので、炊飯器に米を二合セットしてから、「焚けたら適当に食え」と言い置いて羽理とともに家をあとにして。

 鍵はとりあえずオートロックの暗証番号タイプのキーレスキーだから、忘れ物がないようよく確認して部屋から出てくれと頼んだ。
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