あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
***

「暑くないか?」

 結局下着を着ていないと言う気恥ずかしさに勝てなかったのか、羽理(うり)大葉(たいよう)が出してやったブランケットを持ち出したいと要求して来て、今も助手席で身体を覆い隠すようにすっぽりと被っている。

 ビジュアル的にその方が大葉(たいよう)も運転に集中できて有難いのだが、何ぶんそろそろ梅雨に差し掛かろうかという時分のこと。

 窓は少し開けてあるけれど、さすがに暑くはなかろうか?と心配になる。

「平気です。――あ、でもっ。《《変なの》》が横に座っててすみません」

 そろそろ十八時(ろくじ)になろうかと言うところ。
 あと一時間もすれば日没だが、今はまだ西の空に傾いた太陽が辺りを茜色に照らしていて明るい。

 まぶしさに目を(すが)めてサンバイザーを下ろした大葉(たいよう)だ。

 意識すれば対向車や二車線で横に並んだ車から、助手席に座る羽理の姿が良く見えるだろう。

 それを気にしての言葉に、大葉(たいよう)は「構わねぇよ」とつぶやいた。

 実際、人からどう見えようと知ったことじゃない。
 羽理が自分の隣にいること以上に心躍る状況なんてありはしないのだから。

正直(ぶっちゃけ)俺は……お前と一緒にいられればそれだけでいい」

 今までは恥ずかしくてほとんど口にしなかった心の声を正直に声に出せば、羽理が眉根を寄せて「いっ、いきなりそういうことを言うのは反則です……。し、心臓に負担が掛かっちゃいますっ」と胸の辺りをギュウッと押さえるようにして抗議してくる。
 斜陽に照らされてまるで頬を赤く染めているように見える羽理の様子に、大葉(たいよう)は(ホント可愛いな)と思って吐息を落とす。

 自分だってさっきから心臓がドキドキしっぱなしだ。

「なぁ、お前のその胸の痛みだがな……」

「……?」

 ハンドルを握る自分の横顔を羽理がチラチラと見つめてくる視線を感じながら、大葉(たいよう)はほぅっと吐息を落とした。
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