あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 文句を言うや否や、大葉(たいよう)がグッと前かがみになったところをみると、何やら股間の辺りに〝(さわ)り〟が生じてしまったらしい。

「た、大葉(たいよう)のエッチ!」

「お前が見せつけてくるからだろうが!」

「見せつけてません!」

 耳まで真っ赤にして「被害者は俺の方だ……」とかブツブツ言う大葉(たいよう)を追い抜かして先に下まで降りた羽理(うり)は、ふと前方に見える鳥居(とりい)を視界の端に収めて何の気なしにつぶやいた。

「あそこに見える居間猫(いまねこ)神社のお祭り、結構出店が出て盛況なんですよ♪ やたらと焼き何とかが多いんですけどね」

 大葉(たいよう)が階段の上の方から「出店に焼き何とかが多いのは普通だろ」と突っ込むのをクスクス笑いながらスルーした羽理だったのだけれど。

 鳥居の先に三毛猫が悠々と歩いて行く姿を見つけて、ハッとしたように足を止めた。

「そう言えば私、そのお祭りで……」


***


 羽理(うり)がそこまで言って固まってしまうから、やっと下腹部の興奮がおさまってきた大葉(たいよう)は、いそいそと羽理の横へ並んで彼女の顔を覗き込んだ。

「その祭りで……何だ?」

 早く先を話せと急かしたつもりだったのに、「いっ、いきなり距離を削って来ないで下さいっ」と羽理が悲鳴のような声を上げるなり胸元を押さえて飛び退(すさ)って。
 羽織っていたブランケットのすそを踏んでよろけてしまう。

「危ねっ」

 咄嗟(とっさ)のことに、羽理の非難も忘れて慌てて彼女の細い手首を掴んで腕の中に引き寄せた大葉(たいよう)だ。

 常に何かしゃべっている印象の羽理(うり)が大人しくなったことを疑問に思って腕の中を見遣れば、真っ赤になって固まっている羽理が目に入ってきた。

(やべぇ。めちゃくちゃ可愛い……)
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