あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
***

 突然大葉(たいよう)から結婚して欲しいと乞われた羽理(うり)は、ヒュッと息を吸い込んだまま身体を固まらせた。

「え……?」

(この人、今……何て(おっしゃ)いましたかね?)

 もちろん大葉(たいよう)は羽理に何度も好きだと言ってくれていたし、先ほど彼のマンションでは『自分はすでに羽理の恋人のつもりだった』みたいなことも言っていた。

 でも――。

 こんな風に面と向かって二人の関係性をハッキリさせるような文言(もんごん)を投げ掛けられたのは初めてで。
 しかもその問いは恋人をすっ飛ばして結婚の申し込みな上、「する」「しない」の決定権が羽理に(ゆだ)ねられているとか。

 何だか色んな意味でとっても滅茶苦茶。無理難題ではないか。

(え、えっと……大葉(たいよう)、さっき私に何て返事しろって言ってたっけ?)

 余りに突飛(とっぴ)過ぎて他力本願(たりきほんがん)

 大葉(たいよう)から言われた言葉を全サーチ能力を上げて思い返した羽理は、与えられていた選択肢が結婚の申し出を了承するものしかなかったことに今更のように気が付いて……。

 その途端、何だかふっと肩の力が抜けて、緊張の糸がほろほろと(ほころ)んでいくのを感じた。

(ああ、そっか……)

 考えてみれば、確かに恋人よりも婚姻という法律上の後ろ(だて)が得られる分、夫婦という関係はより確実にお互いを独り占め出来る合理的な制度ではないか。

 お見合いならば〝結婚前提〟でお付き合いをすることが基本だろう。

 だったら……結婚した後に(きずな)を深めていく、どこか頓珍漢(とんちんかん)な自由恋愛があってもいい気がしてしまった羽理だ。

 だってそれはまるで――。
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