あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
***

 その後はブランケットを羽織った妙な格好のまま、やたらと恥ずかしがる羽理(うり)の手を半ば強引にギュッと握って幸せ一杯、羽理のアパート前までやって来た大葉(たいよう)だったのだけれど。

 ふと手元を見下ろして「あ……」とつぶやいた。

「どうしたの?」

 羽理がキョトンと大葉(たいよう)を見上げてくるのが可愛くて、思わず(かす)めるように羽理の(ひたい)に、唇を触れさせるだけの軽いキスを落としてから、大葉(たいよう)は決まりが悪そうに口を開いた。

「俺、何か色々浮かれすぎてたみたいだ。――泊まりの荷物とか、全部車に忘れて来てるわ」

「えっ?」

 ブランケットに(くる)まった羽理を、安全に助手席から下ろすのに注力し過ぎて、後部シートに乗せていた宿泊グッズや明日の弁当の総菜、そうして……何ならトランクに載せてあるサツマイモに至るまで……全部車に残したまま。
 ほぼ手ぶらでここまで来てしまっている。

 持って来ているものと言ったらただひとつ、いつも持ち歩いている車の鍵と財布が入った小さなボディーバッグだけ。
 それだけは常の習慣で流れるように肩から斜め掛けにして車を降りていたから、普通に車にロックも掛けられて、他を忘れたことに今の今まで気付けなかった。

(通りで身軽に羽理を抱きしめたりとか……色々出来たわけだな)

 なんて思うと、荷物を置き忘れて来たことが、そう悪いことではなかったようにも思えてくるから不思議だ。

「なぁ、羽理。ちょっと俺、荷物取りに戻って来るから部屋ん中で大人しく待っててくれるか?」

 羽理の部屋の前までしっかり羽理を送り届けてから。

 以前羽理(うり)から預かったまま、何だかんだと返さないままでいた合鍵を使って彼女の部屋の鍵を開けると、
「さっさと中に入って身なりを整えろ」
 羽理を部屋の中へ押し込みながら、あえて「下着を身に着けろ」とは言わずにそれを示唆(しさ)した大葉(たいよう)だ。

 羽理はうながされるままに部屋へ入りつつも、「あの……大葉(たいよう)、その鍵……」と大葉(たいよう)の右手にある〝戦利品〟を指さしてくる。
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