あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 ビンゴと言うべきか。

 その瞬間の羽理(うり)の泣きそうな顔を見て、岳斗(がくと)はピンと来たのだ。

(裸男の正体は屋久蓑(やくみの)部長だ)

 彼が、何故〝裸男〟と呼ばれているのかは分からない。

 でも、羽理本人は気付いていないようだが、彼女が恋の(やまい)を発症している相手が裸男で、その羽理が屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)の女性関係でいちいちこんなに分かりやすくショックを受けると言うことは……二人は同一人物だと考えるのが自然だと言う結論に達した。

(下っ端の五代(ごだい)ならともかく、僕より格上の屋久蓑(やくみの)部長が相手とか……()が悪すぎるでしょう!)

 そう思いはしたのだけれど、羽理が自分の恋心に気付いていない今ならまだ間に合う気がして――。

 とりあえず羽理と仲の良い法忍(ほうにん)仁子(じんこ)から〝真実〟を告げられたらアウトだと思った岳斗だ。

 大葉(たいよう)に彼女がいたと思ったのが、相当ショックだったんだろう。
 自分のついた嘘のせいとはいえ、痛々しいくらいに様子がおかしくなってしまった羽理を呼び出して早退するよう仕向けたのは、実は仁子から引き離すためだ。

 なのに羽理を席に戻すなり仁子が熱心に何かを話しかけているから。
 それを見て、岳斗は柄にもなく真っ向勝負。
 二人の会話をあえて断ち切るように仁子を呼び出して、いつもなら上手くやる駆け引きさえ忘れて、『荒木(あらき)さんの恋心に起因する動悸のこと、きっと法忍(ほうにん)さんも気付いていらっしゃると思います。ですが、僕に考えがあるのでしばらくの間、彼女には種明かしをしないようにしてもらえますか?』と要らぬ釘をさしてしまっていた。

法忍(ほうにん)さんの性格からして……あれは絶対反発するよね)

 そう思ったからこそ。
 岳斗は仁子が動く前に、勝負に出ないといけないと思って羽理に電話を掛けたのだ。

 だけど――。

 電源が切られているのか通じなかったから。

(裏を返せば法忍(ほうにん)さんからの連絡もいかないってことだよね?)
 と少し安堵して――。

 見舞いと称して(じか)に荒木羽理の家を訪ねることにしたのだった。
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