あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「私は……」

 大葉(たいよう)の言葉に、羽理(うり)が真剣に箱の中を睨みつけて……。
 結局「わーん、どっちも美味しそうで選べませんよぅ!」と()を上げるから。
 大葉(たいよう)は思わずケーキを買ってきた岳斗と顔を見合わせると、ぶはっと吹き出した。

「選べねぇんなら仕方ねぇな」

 言って、羽理の手から箱をサッと取り上げると、ふたをしてしまう。

「えっ!? あ、あのっ、大葉(たいよう)!?」

 大葉(たいよう)は羽理が眉根を寄せて不満そうに見上げてくるのを無視して、「なぁ倍相(ばいしょう)課長、別にケーキなくても構わねぇだろ?」と岳斗(がくと)への質問でかわして。
 岳斗がクスクス笑いながら「もちろんです」と答えた。

 そんな男衆ふたりに、「で、でもっ。何か申し訳ないですっ」とソワソワする羽理に、ケーキの箱を冷蔵庫へ仕舞い終えた大葉(たいよう)が「いや、お前からケーキ取り上げる方が申し訳ねぇわ! 後から一人でじっくり味わえ」と返して、岳斗もそれに被せるように「元々荒木(あらき)さんに買ってきたモノだから。気にしないで?」と微笑む。

 結局、出してあった皿も仕舞われて、三人の前には大葉(たいよう)()れて来てくれた、ベルガモットの香りがふぅわり(ただよ)う、上品なアールグレイティーのみが残った。


***


羽理(うり)、お前、あれだ。客用のティーカップとかないのは結構問題だぞ?」

 大葉(たいよう)がそう言ったのも無理はない。

 何しろ、いま三人の目の前で飴色の液体がゆらゆら揺蕩(たゆた)っているのは、三者三様のマグカップの中で。

 どれも猫柄なことだけは共通していた。
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