あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
***


 大葉(たいよう)の、本気の(おど)しがきいたんだろうか。

 あのやり取りの後、岳斗(がくと)はやけにあっさりと立ち上がって。

「じゃあ、僕、そろそろ帰りますね」
 そう言ってどこか(うれ)いを帯びた表情で微笑んだ。

 そうして玄関を出る間際(まぎわ)、「あのっ! い、色々ありましたけど……僕は《《大葉さん》》に敵意はありませんのでそこだけは誤解しないで頂きたいです。それから……お役に立てるかどうかは分かりませんが、困ったことがあったらいつでも相談して下さい。お力添えいたします。……あ、もちろん羽理(うり)ちゃんも」と、まるで《《取って付けたように》》今までは最優先事項だったはずの羽理へ愛想笑いをするから。


 後に残された羽理(うり)とふたり。
 大葉(たいよう)は岳斗の余りの変わり身に戸惑わずにはいられなかったのだが。

「うー。何だかモヤッとします。倍相(ばいしょう)課長ってば、まるで大葉(たいよう)に恋しちゃってるみたいなんですもん」

 羽理が唇を(とが)らせてポツンとそんなことを言うから、思わず「はぁっ!?」と()頓狂(とんきょう)な声を上げてしまっていた。

「い、いや……どう考えてもそりゃねぇだろ」

 大葉(たいよう)の言葉に、羽理は「え? ありますよ! あの表情は絶対フォーリンラブですもん! 気付けなかったとしたら……大葉(たいよう)が鈍すぎるからです!」とか。

「いや、お前がそれを言うか!?」

 今まで散々頑張ってきた自分のアプローチを羽理に(そで)にされまくってきた大葉(たいよう)が、思わずそう返したのも無理はない。


(そもそも男同士でそんな……。俺もアイツもノーマルだぞ!?)

 つい今し方まで自分と岳斗が、羽理を巡って火花バチバチだったことを、羽理だって知っているだろうに。

 大葉(たいよう)は、何をバカげたことを……と、思わずにはいられなかった。
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