あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「けど……元はと言えば大葉(たいよう)のせいなんですからね!? あんな、しつこく……」

 そこでゴニョゴニョと言葉を濁らせて、ムムゥーッと唇をとがらせる羽理(うり)が可愛くて。

 突き出された唇へ掠めるだけのキスを落とすと、大葉(たいよう)は「だから俺が責任取って面倒見てやろうって言ってんだろ?」とククッと笑ってみせた。

「ひゃっ、き、キシュッ……」

 そのせいだろうか。
 羽理が『詭弁(きべん)です!』とか何とか、もっともらしい反論も出来ないまま真っ赤になって、ぎこちない動きになる。
 キスの余波は相当大きかったのか、それじゃなくても痛みでノロノロだった荷物をまとめる手つきが、輪を掛けて覚束(おぼつか)なくなってしまった。

「着替えは旅行鞄の方へ詰めて……、いつも使ってる小さめのバッグに携帯とか財布とか、しょっちゅう使うもん入れとくといいぞ」

 言いながら、床に広げられた羽理の荷物を見た大葉(たいよう)は、思わず「あ……」とつぶやいていた。

 そのまま羽理のそばへ座って財布に取り付けられたキーホールダーを手に取ると、
「おい、これ……」
 言って、羽理にそれを差し出して見せる。

「ん? あー、それですか。へへっ。可愛いでしょう? ……お祭りの時にそこの神社で買ったお守りなんですよ♪」

 昨日居間猫(いまねこ)神社の近くで大葉(たいよう)とともに見た、焼き鳥の三毛猫に導かれるように進んだ先――神社の裏手の誰もいないような場所で、おばあさんがひっそりとお店を開いていたのだと、羽理が説明してくれる。

(焼き鳥のってことは……あのチェシャ猫か……)

 羽理の話を聞きながら、大葉(たいよう)は(怪しげな猫だったし、そんなのについて行ったのかコイツは! ホント危なっかしいな!?)とか何とか思っていたのだけれど。
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