あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「これ、縁結びのお守りで……本当は猫ちゃんもペアだったんです。でも……」

 買ってすぐに一匹いなくなってしまったのだと残念そうにつぶやいた羽理(うり)に、大葉(たいよう)は「もしかして……会社にも付けて行ってたか?」と問い掛けずにはいられない。

 だって――。


「……え? はい。初日には鞄に付けてたんです。でも一匹落っことしちゃったんで大事を取って、お財布(こっち)に付け直しました」

「なぁ、俺、――多分この片割れ持ってるぞ?」

 手にしているハートに「良縁」と書かれた招き猫の根付(ねつけ)だ。そう何個もあるものではないだろう。
 
「え?」

 すっかり忘れていたけれど、いつぞやの休み明け、会社のエレベーターの片隅に落ちていたこれとお揃いの猫を拾って、後で落とし物入れにでも入れておこうとスーツの内ポケットに入れたのを思い出した大葉(たいよう)だ。

 考えてみれば、結局そのまま忘れて家まで持ち帰ってしまって。
 つい何の気なしに書棚の上にポンッと置いたままになってしまっていた。

(忙しさにかまけてすっかり忘れちまってたが――)

 よくよく思い出してみれば、羽理と真っ裸で初めましてをしたのは、それを拾った日の夜だった。

(もしかして……このせい……なの、か?)

 非現実的で荒唐無稽(こうとうむけい)な話だけれど、そもそも遠く離れた風呂と風呂が繋がること自体、あり得ないことだ。
 あの怪しいチェシャ猫由来のキーホールダーが原因だって、何ら不思議ではない気がして。


「羽理、これ……縁結びのお守りって言った……よ、な?」

「……はい」

「だったら……俺たちの縁って……このお守りが結んだんじゃねぇのか?」

 大葉(たいよう)がそう言った途端、どこかで「大当たりニャァァァー」と、猫(?)の鳴く声が聞こえた……気がした。
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