あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
23.スーツを着た理由
 大葉(たいよう)の家は会社のすぐ近く――徒歩圏内――だ。

 対して、羽理(うり)の家から大葉(たいよう)の家までは車で約二十分と、そこそこ離れている。

 マンションに立ち寄って、羽理のことを柚子(ゆず)にお願いしたりする時間も考えると、《《通院した体で》》ここを後にするのは最低でも予定出社時間までに四十分以上ゆとりがある状態にしたい。

 そんな思いのせいだろうか?

 お互い有休を取っているくせに、時間を重ねないよう気を付けながら洗面所やトイレを使い分けた結果、いつもの出社時間に間に合う感じで支度(したく)が整ってしまった。

(イチャイチャする時間が残ったんじゃね?)

 ホクホクしながらそう期待した大葉(たいよう)だったのだが、自分がすこぶる快調なせいで、羽理がズタボロなことをスッカリ失念していたりする。

 加えて、羽理の家に置かせてもらっていた、着替えの中からきっちりとしたスーツを選んで身を包んでしまった結果、余りバカなことが出来ないな?とも思って。

(ジャケットだけでも脱ぐか?)

 なんて思いながら玄関先にある姿見の前でチェックしていたら、大葉(たいよう)の服装が意外だったらしい。

「あれ? 大葉(たいよう)、今日は作業服じゃないの?」

 ヨロヨロと壁を擦るように近付いてきた羽理が、キョトンとした顔でそう問いかけてきた。

 大葉(たいよう)は、役職的には総務部長だが、基本的には作業服で出社することが多い。
 現場の視察に行って、作業風景を見ていたらウズウズと我慢出来なくなって、手伝ってしまうことがままあるからなのだが、そこはまぁ臨機応変。

 会社にはスーツも作業服も両方着替えが置いてあって、必要に迫られれば今みたくしっかりスーツに身を包む。
< 271 / 339 >

この作品をシェア

pagetop