あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「ああ。今日は出社したらすぐ、社長室へ出向こうと思ってるからな」

 作業服のままで社長と対面することもなくはないのだが、最初からトップの元を訪れるつもりなのだ。さすがに気持ちを引き締めてネクタイも締めるべきだろう。

 だが考えてみれば羽理(うり)に認識されてからこっち、スーツを着たことはなかったな?と思って。

「なんだ、ひょっとしてスーツ姿の俺に()……」
「社長室って……。あっ! 有給を頂いた絡みですか?」

 羽理にカッコイイと言って欲しくて「見惚(みと)れたのか?」と、付け加えたかった大葉(たいよう)なのに、肝心な言葉へ被せるように別のことを質問されて、さすがに(こいつ、わざとだろ!?)と思ってしまった。

「お(まっ)少しは(ちったぁー)俺の話聞けよ!」

「ちゃんと聞いて反応してるじゃないですか」

「だから……そっちじゃなく!」

「そっちって……どっちですか!?」

「もういい!」


***


 ムスッとしてそっぽを向いてしまった大葉(たいよう)に、羽理(うり)は痛みも手伝って、(何なのもう!)とプンスカした。

 大葉(たいよう)が鏡の前に立っているせいで、自分のコーディネイトチェックが出来ないことにもイライラしてしまう。

(せっかく頑張ってここまで辿り着いたのにぃ! 痛む身体を引きずって来た意味!)

 頭の中で盛大にヤイヤイ文句を言いながら、でも何となく素直にそれが言えなくて、羽理は無言で圧を掛けるみたいに大葉(たいよう)の背後をキープし続けた。
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