あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
「ま、その気持ち、俺にも分からんではないけどな」

 ククッと笑って言ったら、今度は倍相(ばいしょう)が驚いたように瞳を見開いた。

大葉(たいよう)さんこそ、そんな顔をして笑えるんですね。――なんか……結構《《ヤバイ》》です」

 何故か赤くなった倍相(ばいしょう)が、自分のその反応を振り払いたいみたいに「お願いですから早いところ荒木(あらき)さんとのこと、社内に公言してください! でないと、色々と面倒なことになりそうです」と盛大に吐息を落とす。

「は? どういう意味だよ」

「そのままの意味です。《《僕のことはともかくとして》》、荒木さんにやきもきするような辛い思いをさせたくなければ、助言を守って下さいね? 僕も……営業課の件は通常の流れで領収を回してもらうよう雨衣(あまい)課長とちゃんと話をしますので。ただし――」

 そこで言葉を止めた倍相(ばいしょう)からじとりとした視線を送られて、大葉(たいよう)は思わず「な、んだよ……」とたじろいだ。

「しつこいようですが、大葉(たいよう)さんが荒木(あらき)さんとのことを社内でハッキリ公言してからです。今までは《《僕自身のために》》五代(ごだい)の動きを制限していましたが、今はそれプラス大葉(たいよう)さんのためにそうしていると思ってください」

「え? あ、いや、……そんなことされなくても俺は自力でちゃんと……」

「ワンコに勝てる自信がおありですか? 相手はあんなに押しが強いのに?」

 聞かれてグッと言葉に詰まった大葉(たいよう)を置き去りに、倍相(ばいしょう)は「そういうことですので」と話を切り上げてしまう。

 もうこれ以上話すことはないとばかりに一礼して立ち去ろうとする倍相(ばいしょう)を思わず立ち上がったまま見つめていたら、「――見合い話が持ち上がってる件も、荒木さんへ伝わる前にさっさと処理して下さいね? 今からその話をしに社長室へ向かわれるんでしょう? 僕に彼女を傷付けるなと威嚇(いかく)してきた時みたいに、社長にもバシッとキメて来て下さると信じています」と、トドメを刺された。

 そんな倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)の言動に、最後まで食えないやつだと大葉(たいよう)が思ったのは致し方あるまい。

 大葉(たいよう)だって、日頃は着ないスーツに身を包んで気合を入れてきたのだ。

「……お前に言われなくてもそのつもりだよ」

 ややしてポツンとつぶやかれた言葉は、閉ざされた扉に(はば)まれて、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)の耳には届かなかった。
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