あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 あの頃は自分より年上の部下たちからは業務に支障が出るレベルの反発をされた。
 見た目の良さに加え、〝社内一の出世頭〟という付加価値もついた大葉(たいよう)は、目の色を変えた女達から付き纏われる羽目にもなって。
 それがさらに男性社員らの不満を煽るという悪循環。

 針の(むしろ)にいるようで、本当にしんどかったのを覚えている。

 そんななか、休日に母方の実家へ行って畑を手伝うことだけが、大葉(たいよう)の心を唯一癒してくれたのだ。

 部長になった今でも作業服を着て現場仕事に混ざりたくなるのは、そういう経緯もある。


 課長職で心を殺して踏ん張って四年。
 大葉(たいよう)が総務部長になって、自分のポストだった財務経理課長に、当時二十八歳の倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)が就任した。
 それは大葉(たいよう)の、二十九歳での課長昇格よりも一年ほど早かったから。
 どんな人間でも頑張れば二十代で課長まで上がることは可能なのだと他の社員らに認識されるには十分の出来事だった。

 だが、そうなるまでの間、大葉(たいよう)が他社員らからの(ねた)みと色眼鏡の渦中で過ごしてきたことは言うまでもない。

 要は倍相(ばいしょう)のお陰で少しだけ溜飲(りゅういん)を下げられた大葉(たいよう)だったのだけれど。

(そう言やぁ)

 考えてみれば自分が縁故入社だと囁かれ出したのは、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)が財務経理課へ配属されてきて間もない頃だったなとふと思ってしまった。

 倍相(ばいしょう)課長は、今でこそ何かやけにフレンドリーになったが、それこそ一昨日まではかなり大葉(たいよう)に対して当たりが強かったはずだ。

 大葉(たいよう)が社長の身内だというのも知っていたと言っていたし、やっぱりアレは倍相(ばいしょう)仕業(しわざ)だったのかも知れない。

 大葉(たいよう)は吐息混じりにそう思った。


***


「はい。実はその彼が羽理(うり)……、荒木(あらき)さんとのこと、社内に公表すべきだって言ってきましてね」

「え?」

「そうしないと、大変なことになると(おど)されました」
< 295 / 411 >

この作品をシェア

pagetop