あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 ただ、そのお陰で自分は母親から捨てられたわけではなかったと思えたのは確かだったらしい。

 そこだけは救いだったのだと倍相(ばいしょう)が言うから。

 大葉(たいよう)は子供の頃にこの男と出会えていたならば、もっと違った関わり方が出来ていたんだろうかと、考えても仕方のないことを思ってしまった。

「とにかく僕は……僕にはないものを当たり前に全部持っているように見えた貴方のことが(うらや)ましくてたまらなかった……。――結局のところ理由はどうあれ全て僕の(みにく)い嫉妬心が原因で……大葉(たいよう)さんは微塵も悪くありません。――謝って済むことではありませんが……本当に申し訳ありませんでした」

 幼少期から土恵(つちけい)商事に入るまでの壮絶な過去を淡々と話したのち、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)はどこか縋りつくような目をして大葉(たいよう)に頭を下げてきた。

「僕が大葉(たいよう)さんにしたことは……義母が僕にしたことと変わらないなって……心の片隅ではずっと分かってました。僕は義母にされて嫌だったことを大葉(たいよう)さんにすることで鬱憤(うっぷん)を晴らしていたんだと思います。……こんなの、ホント最低ですよね。……おいそれと許して頂けるとは思っていません。ですが――」
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