あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 期せずして身体に力が入ってしまったからだろう。腰の辺りが気怠(けだる)(うず)いて、羽理(うり)は、昨夜大葉(たいよう)と最後までしてしまったことを痛感させられた。
 大葉(たいよう)が羽理一筋だと……、羽理と結婚したいと言ってくれたから、羽理は彼に身体を許したのだ。もしもそれが根底からくつがえされてしまうとしたら、自分はとんでもない(あやま)ちを犯してしまったのではないだろうか――。

「……私、私生児なんです」

 気が付けば、心許(こころもと)なさから思わずポツンとそうこぼして、柚子(ゆず)に「え?」と言わせてしまっていた。
 柚子からの疑問符に押されるみたいに、羽理は生まれつき父親とは無縁の、いわゆる〝非嫡出子(ひちゃくしゅつし)〟として母一人子一人の母子家庭で育ったことを告白した。

「私、別にそういう家庭に生まれて不幸だったわけじゃありません。むしろ、母からは愛情を一杯注いでもらえたし、物凄く幸せでした。でも……みんなの家みたいにお父さんが居ないこと、寂しく思わなかったといえば嘘になります。だから……」

 羽理は二十五歳になる今の今まで男性経験がなかったのだ。
 もちろん、大葉(たいよう)と出会うまで、彼氏が一人もいなかったわけじゃない。学生の頃には付き合っている男性(ひと)だっていた。でも、家庭を作れると確証が持てない相手とは、怖くて性行為をする気にはなれなかったのだ。
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