あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 貞操観念が固過ぎると非難されてダメになってしまった元カレには、フラれてもそんなに未練を(いだ)けなかった。
 大葉(たいよう)と出会って分かったのだけれど、羽理(うり)は元カレのことを本気で好きではなかったのだ。でも、大葉(たいよう)は違う。大葉(たいよう)にフラれてしまうかも知れないと思ったら、それだけで胸の奥がキュゥッと締め付けられるように痛くなってしまう。

 今、柚子(ゆず)から大葉(たいよう)のお見合いの話を聞いて、羽理は痛感した。自分が、大葉(たいよう)に全てを許してしまった本当の理由は――。

大葉(たいよう)は……私をお嫁さんにしてくれるって言いました。私、それを信じたい、ん……です」

 羽理は、知らず知らずのうちに大葉(たいよう)と家族になりたい、と心の底から(こいねが)ってしまっていたのだ。そのために身体を繋げることが必要ならば、今まで(かたく)なに守ってきたその垣根を越えても構わないと思えるほどに。

 でも、信じたいと言いながら、不安でウルッと視界が水の底に滲んで、思わず声が震えてしまう。

「羽理ちゃん……。うちの弟は……無責任なことは絶対しないから。だから、お願い。泣かないで?」

 柚子は要らないことを言って羽理を不安にさせてしまったことを素直に謝罪しながら、ポロポロと涙をこぼす羽理をギュウッと抱き締めてくれた。

「私、たいちゃんを信じているからこそ、持ち掛けられた見合い話を断るためにあの子、伯父さんのところへ行ったに違いないと確信しているのよ?」

 柚子は、噛んで含めるようにそう語り掛けながら、羽理の背中を優しく撫でて心のざわつきを(なだ)めようとしてくれる。

 そんな時のことだった。二人の横で、鞄の中に入れたままの柚子の携帯が着信音を響かせたのは――。
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