あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
***


『もしもし?』

 いつもより若干姉の声音が逼迫(ひっぱく)して感じられるのは気のせいだろうか?
 何となく電話口でグスグスと(はな)をすするような音まで聴こえた気がして、大葉(たいよう)は電話した用向きを一瞬忘れかけた。

 そればかりか――。

『ほら、羽理(うり)ちゃん。たいちゃんから電話掛かってきたわよ? 代わる?』

 「今どこ?」も、「愛犬(ウリちゃん)は一緒なのか?」も問い掛けられないまま、大葉(たいよう)は電話口から聞こえてきた、柚子(ゆず)のどこか気遣わしげな声音に違和感を覚える。
 それを意識して電話の向こう側の気配へ集中すれば、(はな)をすすっているのはどうやら羽理のようで……。

「なぁ、柚子、羽理に何かあったのか?」

 不安にかられた大葉(たいよう)は、向こうが聴いているいないを度外視してそう問い掛けずにはいられない。

 もしかして突発的に柚子が愛車を借りたがったのも、羽理に何かあったからなのでは? そう思うと心臓がバクバクして、今すぐにでも帰りたい! と思ってしまった。

 ギュッとスマートフォンを握り締めながら有給休暇簿! と思って引き出しを開けたと同時、
『……(たい)(よぉ)……?』
 大葉(たいよう)の耳に自分の名を呼ぶ羽理の声が届いた。
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