あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 大葉(たいよう)が事実を有耶無耶(うやむや)にしてそう問い掛けた途端、電話口の羽理(うり)がヒュッと息を呑んだのが分かった。

『……大葉(たいよう)のバカ! 嘘つき! 私を泣かせたのは貴方だもん! 大嫌い!』

 一瞬の沈黙の後、悲鳴を上げるみたいに矢継ぎ早にまくし立てた羽理に、電話をブチッと切られてしまう。

「あ、おい! 羽理っ!」

 慌てて呼びかけたけれど、通話口からは無情にもツーツー……と無機質な機械音が聴こえてくるばかり。
 そんな携帯電話を握りしめたまま、大葉(たいよう)は「どういうことだよ……」とつぶやいて呆然と立ち尽くして――。数秒後ハッとしたように気が付いて、もう一度柚子(ゆず)に電話を掛け直してみたのだけれど、羽理に出るなと止められているのだろうか? 姉は一向に応答してくれなかった。
 もちろん、同様に羽理の電話にもアクセスしてみたのだけれど、こちらは電源自体が切られてしまっているようで、『お掛けになった電話番号は、電源が切られているか――』などという非情なアナウンスを流してくるばかり。

「あー、くそっ!」

 仕事を切り上げて、今すぐにでも羽理の元へ駆け付けたいと思った大葉(たいよう)だったのだけれど――。
「どこにいるんだよ……!」
 一番最初にそれを聞きそびれてしまったことを、心の底から後悔せずにはいられなかった。
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