あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
31.メッセージ
 畑の中心で愛を叫ぶだね、と柚子(あね)と母親から笑われた大葉(たいよう)は、そこでやっと今更のように『杏子(あんず)は?』と思ったのだけれど。

「アンちゃんなら帰ったわ」

 母親にうながされて家の中へ入って行く羽理(うり)の背ろ姿を気にしながら、スッと大葉(たいよう)の方へ近付いてきた柚子(ゆず)が、大葉(たいよう)にだけ聞こえるくらいの小声でそう教えてくれた。

大葉(たいよう)、私ね、最低なの……』
 途端、さっき抱き締めた腕の中で小さく身じろぎながら発せられた羽理の言葉が頭の中へよみがえってきて、大葉(たいよう)は我知らず眉根を寄せる。

大葉(たいよう)がね、彼女に(すが)りつかれてるのを見たとき、私、彼女が貴方に冷たくあしらわれて突き放されてしまえばいいのにって思っちゃったの……』

 そんな自分のどす黒い感情がイヤで、大葉(たいよう)に呼び止められても逃げてしまったらしい。

『私、絶対すっごく意地悪な顔になってたと思うの。そんな酷い顔、大葉(たいよう)には見せたくなかったから……』
 羽理は愛らしいアーモンドアイをちょっぴり曇らせて大葉(たいよう)を見上げながら言ったのだ。
『私、今、イヤな顔してない? 彼女は……杏子さんは大葉(たいよう)からあんな風に放置されてきっとすごく傷ついたよね。大丈夫かな……』
 と――。
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