生意気な後輩はどうやら私のことが好きらしい
「無理無理無理。よりによってなんで九条渚と……しかも隣の部屋」
お気に入りのクッションに顔を押し付けて、思いっきり叫ぶ。
数分前『渚くんは穂波の隣にある部屋を使ってね』とお母さんが言った。
この数年間、隣の部屋には普段使わないものが置かれていて、いわば物置小屋状態。
ところが、私の知らない間に九条渚の部屋へと変貌を遂げていたのだ。
昨日まで顔を合わせないよう必死に避けていた男と一緒に暮らすことになるなんて。
「……だめだ、何か他のこと考えよう」
目に入ったのは机の上に置きっぱなしだったビニール袋。
中身はすずちゃんとの寄り道途中に買った少女漫画だ。
いつもなら真っ先に開封し、読み終えたら大切に本棚に並べる。
だけど、今日はそれどころじゃなかった。
「イケメン後輩との同居……これが漫画なら最高のシチュエーションなのに」
天井を見上げながらそうつぶやくと、隣からガチャという音が聞こえ、その直後に今度はバタンッとドアの閉まる音がした。
リビングで話していた九条渚が部屋に戻ってきたのだろう。
……変なの、ここは自分の家なのにちっとも気持ちが落ち着かない。
ガタン、ドン、ガシャン。
隣から聞こえる物音にも、いちいち反応してしまう。