生意気な後輩はどうやら私のことが好きらしい
だから、皆よりも先に夕食を食べ終えて、早くこの場から立ち去りたい。
明日提出の課題があると言ったら、お母さんも止めはしないだろう。
なんてことを考えていると、日向がひとつのお皿を指差し九条渚に話しかけた。
「これ、穂波ちゃんが作ったんだよ」
それはこの中で唯一、私が作った料理。
すこ〜し、形の崩れた卵焼き。
「穂波先輩、これなんて料理?」
日向が指差した料理を見て、今度は九条渚が私に話しかけてくる。
えっ、は、話しかけてくるの?
そ、それもそうか。
九条渚は部屋の壁が薄いこと、話し声が筒抜けだってことを一切知らないんだから。
私もいつもどおり接しないと。
「なんて料理って見ればわかるでしょ。卵焼き」
「え、これ卵焼き? スクランブルエッグの間違いでしょ」
九条渚は目の前にお母さんがいようがお構いなし、通常運転だ。
その様子を見ていると、さっきの言葉はやはり何かの間違いだったのではないか。そう思えてくる。
隣の男からは“好意”なんてものを微塵も感じない。
「ちょっと、形が崩れただけでしょ」
「ちょっと……ね、」と何か言いたげな九条渚。