生意気な後輩はどうやら私のことが好きらしい
「あ、てか俺もう行くわ」
「行くってどこに?うちから学校まで20分もあれば着くけど」
よく見ると九条渚はすでに制服へと着替えていて、髪も綺麗にセットされている。
未だにボンバー頭の私とは大違いだ。
「朝練」
「仮入部中も朝練ってあるの?」
「俺、期待のルーキーなんで」
そう言って片方の広角だけを上げて笑う九条渚。
「……あっそ。あ、そういえば昨日言い忘れてたんだけど、同居してることは誰にも言わないでよね」
「なんで?」
なんでって……。
九条渚なんかと同居しているのがバレたら、どうなることか……。
想像しただけでも、恐ろしい。
「いいから黙ってて」
「わかった。だけど一つだけ条件がある」
「な、何よ。条件って」
というか、バレたら困るのはお互い様じゃないの?
「昔みたいに名前で呼んで。あんたじゃなくて。あ、先に言っとくけど苗字とかフルネームも禁止だから」
よりによって、条件がそれって……。
ずっと呼ばないようにしていた。
その名前を呼んでしまうと、一気に昔へと引き戻されてしまうような気がしたから。
だけど……。
同居の件については、黙っててもらわなきゃ困る。
だから、私はその条件を呑むしかない。