生意気な後輩はどうやら私のことが好きらしい
「渚くん来てませんか?」
複数人いる女の子の中でリーダーらしき人物がそう尋ねてくる。
彼はこのギャラリーから逃げてきたのだろうか。
いつも女の子に囲まれて、楽しそうにしている。そう思っていたが、モテるのも大変なんだな。
「……来てません」
気づくと私は彼女達にそう返していた。
「渚くん来てないってー」
「えー!こっちに走って来たはずなのに」
騒ぐだけ騒いで出ていった彼女達と、その様子に安堵した表情でカウンターから出てくる彼。
そのまま出ていくのかと思いきや、隣の椅子に腰掛けた彼は私が持っていた小説を指指し一言。
「それ何読んでんの?」
匿ってあげたことについてのお礼はなく、先輩に対してタメ口。
正直“ないな”そう思った瞬間だった。
だからなのか、隣に座っていてもあまり緊張しない。
「……少女漫画の原作小説」
「へー好きなの?少女漫画」
「ま、まぁ」
「あ、そういえば先輩名前は?」
「……桃沢穂波」
「俺は九条渚。渚でいいよ」
彼を知らない人間なんてこの学校にはいない。
それなのに、律儀に自己紹介をする渚を見て何だか可笑しくなった。