生意気な後輩はどうやら私のことが好きらしい


「卒業おめでとう」

今日くらい“おめでとうございます”って言えないの?なんて、思いながらもいつもと変わらぬ口調に目が潤む。


「あ、ありがとう」

「あのさ、」

そう言うと渚は黙り込んだ。

いつも思いのまま話す渚が何かを考え込むのは珍しい。

「どうしたの?」

もしかして、渚も寂しいと思ってくれてるの?

……そうだったらいいな。

私は潤む目元に手をやった。

その瞬間、思いもよらぬ言葉が飛んでくる。


「穂波先輩って俺のこと好きでしょ?」


…………はい?

零れ落ちそうになった涙はピタリと止まる。

突然、現れて何を言うのかと思えば『穂波先輩って俺のこと好きでしょ?』って何?


言った本人はなぜか自信ありげな表情でこちらを見ている。

そして、周りにはいつの間にか大勢のギャラリーがいて、多くの人の視線が私と渚に集まっていた。

“好き”ではなく“好きでしょ?”。

この中で真意のわからないその質問に頷くことなんてできない。

そう思った私は首を横に振った。


すると「本当に?」ともう一度、聞き返してくる渚。

私だって場所が違えば素直に頷いた。


だから、その答えに返事をする代わりに、渚の元へ一瞬近づき小声で話した。

「に、日曜日。15時にあの公園で。その質問の答えちゃんと言うから」と。

それはとある日の帰り道、偶然会った渚と一度だけ寄り道をしたことがある公園。


「わかった。じゃあ、先輩またね」


それが中学生の渚と交わした最後の言葉。

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