深まり愛~彼は一途な想いを貫く~
「ちょっと、成瀬。声が大きいってば……」

興奮する成瀬の声が近くに座っている人に届いたようだ。

迷惑そうな顔で、こちらを見ていた。

成瀬は口を押さえて、周囲の人たちにペコペコと頭を下げた。一応、反省しているみたいだ。

それから、「出よう」と立ち上がった。私は「そうだね」と成瀬に近寄る。

私の背中にそっと手を当てた成瀬が耳もとで囁いた。

「二人だけになりたいよね」

『出よう』はそういう意味だったのか……成瀬も周囲の視線を気にして、この場を去ろううとしたのかと思ったけど……。

私は『そうだね』と答えてしまった。成瀬は私も二人だけになりたいと思ったに違いない。

でも、ここで話すよりは二人だけになれる場所で話したい。

私たちはホテルへ戻り、成瀬の部屋に入った。

レストランからホテルまで、少し歩いただけで汗をかいた。

成瀬がエアコンのスイッチを入れると、冷たい風が流れてきた。

確かにここは、二人だけの空間ではあるが、足を踏み入れて良かったのだろうかと不安になってくる。

成瀬に手を引かれるまま、付いてきてしまった。

コーナールームだからなのか、私が泊まる予定にしていたツインルームよりも広かった。

「えっと、あの、一人なのにダブルルーム?」
「ああ、シングルベッドだと落ちそうで心配なんだよ」
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