深まり愛~彼は一途な想いを貫く~
すぐにでも立ち去りたいところだけれど、目を合わせてしまったから無視できない。

山中さんは元カレを気にしながら、私に話しかけた。

「中田さん、実家に帰ったと聞きましたけど」

実家の方に帰る予定ではあった。しかし、恭也が東京に来たから、帰っていない。

細かく説明する必要はないだろう。

「事情があって、こっちにいるんですよ」
「あ、そうなんですか……じゃあ、またどこかで会うこともありそうですね。アハハ……」

山中さんは何も言わずにいる元カレをふたたびちらりと見ながら、乾いた声で笑う。

居心地が悪い。 

「私、これから用事があるので」
「あ! 引き止めてしまい、ごめんなさい。僕らは会社に戻るので……では」

山中さんと私はお互いに会釈した。元カレは私をジッと見ているが、目を合わせないようにする。

二人に背を向けて一歩進もうした瞬間、手首を掴まれる。

私は振り返って、元カレに冷たい視線を送った。

どうして触るのよ……。

「何? 離してもらえる?」
「あ、悪い。あの、さやか……」
「何?」
「こっちにいるなら、会社を辞める必要なかったと思うけど」 

私が何で辞めたのか理解できていないのか……ふつふつと怒りが湧いてくる。
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