深まり愛~彼は一途な想いを貫く~
『さやか? おーい? どうした?』
「今、人が来ているから、あとでかけ直すね」
『は? 誰が来てるの?』
「ごめん、またね」

彼からの質問に答えず、通話を終える。何を言ったらいいのか、わからなかった。

ものすごく会いたいと求めているのに、手を伸ばせない。

スマホを握りしめて、視線をゆっくりと前に向ける。

典子さんはジッと私を見ていた。射抜かれるような瞳に心が落ち着かなくなる。

「恭也さんとはまだ数回しか会ったことないけど、信用できる人だと思っているわ」
「あ、私もです」

だから、なんだって言うんだ……と、自分で突っ込みたくなった。

典子さんがため息をつく。

やはり見当違いの返しをしてしまったようだ。

「小野田の家、会社に必要な人なの。でも、申し訳ないけど……あなたは必要ではないわ」
「そんな……」

恭也にとって、自分はいらない人間、邪魔な人間だと言われたように思えた。

たぶんそういう意味で言ったのだろうけど……。

胸が苦しくなる。

彼を手放したくないのに、いつまでも掴んでいてはいけないのかと怖くなる。

嫌だ、失いたくない。
< 75 / 176 >

この作品をシェア

pagetop