深まり愛~彼は一途な想いを貫く~
「さやか、俺は別れないよ」
「えっ?」
「さやかがいない生活なんか、考えられない」
「でも……」

反論する言葉が出てこなかった。

「どうして人に言われて、俺たちが別れないといけないんだよ。何よりも大事なのは、俺たちの気持ちだろ?」
「そうだけど、でもね」
「さやかは俺が嫌いになった? 俺と付き合うのが面倒になった?」
「えっ、あの、それは……」
「俺のことが嫌になっていないのなら、別れることはない。違う?」

恭也からの問いに答えられなかった。

嫌いではないけれど、言えない。面倒ではないけど、言えない。嫌になんて、なっていない……。

「恭也、ごめんなさい」

何とか出した言葉は、謝罪だ。

「何を謝っているの?」
「別れて……お願い」
「何でだよ?」
「別れた方がいいの。それが、みんなのためになるし、私たちのためにもなる」
「何を言っているんだよ、納得できない」

恭也はコップの水を飲み干した。そこに、おそるおそると食後のコーヒーが運ばれてくる。「ごゆっくり」と告げるウエイターの声は小さかった。
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