深まり愛~彼は一途な想いを貫く~
試練
その後、私は恭也が手配してくれたマンスリーマンションに住み始めた。

別れてからは会うこともなく、連絡も取らないことになるはずだったが、彼が別れた翌日にまた職場に来たのだった。

「中田さん、昨日の人がまた来てますよ」

前日と同じ男性社員から言われて、何しに来たのだろうと首を捻った。

「これ、使って。契約者は俺で、使用者はさやかにしてあるから」
「あ、ありがとう」

渡されたのは、マンションの地図と鍵だった。

自分のことは自分でやる予定でいた。だけど、どうしたらいいか困っていたので、正直助かった。

家具や家電が付いているから、急いで買う必要がないのもありがたかった。本気で実家に帰ろうかと考えていたが、まだ働いて間もない職場から離れたくはなかった。

どこにいても同じ空の下とはいうが、近くに恭也を感じられる場所にいられるのも嬉しくなった。

未練がましいな、私……。

休日一人でいると、思い浮かべてしまうのは恭也の顔。

ぼんやりしているのが、良くない。

部屋探しをしよう。この部屋は一か月単位で更新する物件である。目的もなく、だらだらと住み続けるところではない。
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