深まり愛~彼は一途な想いを貫く~
恭也は今、何をしているのかな……好きな料理をしているのかもしれない。

食後のコーヒーを飲んでいると、「あら」と近くから声が掛かった。

聞き覚えのある声に振り向く。

やはり……。

会いたくない人に会ってしまうのは、どんな試練なんだろう……。

そういえばこの人、おひとり様ランチが趣味だとか言っていたような。

「お隣、いいかしら?」
「あ、どうぞ」

数分前に隣の席が空いた。彼女も一人なのだから、カウンターに座るのはおかしいことではない。だけど、他にも空いている席があるのに、なぜここを選ぶの?

そうだ、コーヒーを飲み終えれば、この場から去れる!

急いで飲み干そうとするが、「そうそう」と話し掛けられてしまった。私はカップを持ったままで、彼女……古谷さんを見る。

古谷さんはメニュー表を手にした状態で、顔を私の方に向けていた。

「恭也さんと別れたらしいですね」
「聞いたのですか?」
「ええ、おかげさまで私たちのことが進んでいます」

私たち……と自分と恭也をセットにした言い方に胸がチクリと痛んだ。
< 93 / 176 >

この作品をシェア

pagetop